スタジオジブリのプロデューサーである鈴木敏夫さんが、何かのインタビューで「もののけ姫」のヒットについて語っていて印象に残ったことがある。それが「良い映画を作っても、宣伝費をかけても、ヒットしない」という台詞だ。
もののけ姫といえば1997年に公開され興行収入193億円を記録した大ヒット作品。当時の興行記録を塗り替えたことでも知られている。観客動員数はなんと1420万人というから正に空前の大ヒットだろう。その後は100億円以上のヒットを次々と飛ばすスタジオジブリだが、もののけ姫公開までの興行成績で一番良かったのが紅の豚の47.6億円。いきなりこれまでの4倍以上の規模の動員をしたのだ。しかも当時の興行成績トップは「南極物語」の60億くらい。それを遥かに上回る動員ができた裏にはある仕掛けがあったと言う。
それは
「上映してくれる映画館の確保」
だった。
つまり配給だ。鈴木プロデューサーは、これまでの経験上「いい映画を作っても、宣伝を頑張ってもヒットするとは限らない」と感じていた。そして、「配給の営業が一番興行成績に与える影響が大きい」と思ったそうだ。
「最後は小屋の問題」
日本中にある3,000以上のスクリーンのうち、特に観客動員の多い映画館(300程度)をいかに確保するか、その営業に相当力を入れたという。
当時の映画館は「様子をみて上映先を拡げていく」のが一般的。しかし、もののけ姫は最初から上映先をたくさん確保。公開スタートからたくさんの箱で上映を開始したのだという。1997年の夏はジュラシックパークが鳴り物入りで日本上陸しようという時。その中でのスクリーン確保にはかなり苦労があったのだとか。
この話は、一件見逃しがちな「流通」の大切さを教えてくれる。
昔から地方では新しい名物を作ろうと「お土産」が開発されている。
おしゃれなパッケージ。原材料へのこだわり。そして、WEBや行政によるPR。良いお土産を、良い宣伝をして頑張って定着させようとしているが結局どれも知らない間に消えていくように感じる。
新潟で言えば、笹だんごと柿の種などには、敵わないという印象。
それもそのはず、駅でも、物産館でも、お土産屋さんには新開発したお土産よりも、圧倒的に笹だんごや柿の種の方が多い。流通をしっかり抑えているのだ。
おみやげだけでなくメディアもそうだ。
新聞やテレビが強いのは、コンテンツ力というよりは「流通」の力だ。一度に大多数の人に情報を届けられるという流通の力がマスメディアとスモールメディアの決定的な差なのである。
コンビニも流通に支えられている。
多品種小ロットを支える流通の仕組みこそがコンビニの競争力の源泉である。
「流通」とは消費者へのアクセス権。
今、アップルやGoogle、facebookが戦っているのは、「プラットフォーマー」として、どう流通を制するか?ということだ。アップルストア、Google Playはネットコンテンツの流通の軸を争っているし、facebookはコミュニケーションの流通を抑えようとしている。
「流通」を制すること、それこそがあらゆることの競争力の源泉になるのかもしれない。