読書メモ― 資本主義卒業試験 山田玲司

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新潟市西区内野、内野駅の目の前にある本屋「ツルハシブックス」といえば今や全国の本屋好きの間でも認知度の高い本屋だ。そこの店主・西田卓司さんに貸してもらった一冊。
現代社会の仕組み、つまり資本主義の仕組みに疑問を持ったマンガ家の主人公が、資本主義システムの幻想を解き明かしていくというストーリー仕立ての内容。登場するキャラもキャラ立ちしており、話の展開もスムーズで、「マンガで分かる資本主義」的な解説本のようにサクサクと読めた。

資本主義に疑問をもつ主人公達が、資本主義のシステムとしての欠陥をズバズバと追求していく前半から中盤にかけては、なかなかに痛快である。「そうだ!社会は間違っているんだ!」と賛同したくもなる。しかし、後半に語られる「人間の性(さが)」というか動物としての人間の特性を論じた辺りから一気にトーンダウン。結論はそれはもう非常に物足りなく残念な本であった。

本書の最後は、「人間がなくしてはいけない3つ」が挙げられている。それは「からだ」、「師」、「自分」だそう。それを個人個人が守って大切にして、自分なりに資本主義から卒業しようというような結論だ。これでは、資本主義という大きな社会システムから目を背けて、自分なりの幸せを探そうぜというクソみたいな話ではないか。そして、そもそも資本主義事態がそういうシステムなんだから、最後まで読んで、「え?これは遠回しに“やっぱ資本主義っしょ”と言っているのと変わらないのでは?」と思ってしまった。

私は常々「社会全体を語る時と、人間個々の活動をいっしょくたに語るのは難しい」と思っている。個人の幸せと、社会の幸せが一致しないことがこの世にはままある。というか、人間はある程度の人数が集まり、社会になった瞬間に、社会という別の生き物を生み出す気がする。その生き物と人間個人の幸福は完璧にイコールになることはないのだ。この本は前半は資本主義全体の話、つまり社会システムの話をしている。その解明の仕方は痛快でわかりやすく面白い。だが、解決の段階では個人の問題にすり替えてしまって、結局社会システムに対する提案はしていない。その辺りに夢がないなぁと思ってしまう。

それにしても、こういう本で個人の生き方の結論として出る「自分を大切に」「身の回りを守る」といったものは、既にヤンキーが生活の中で実現していることである。ヤンキーは家族とか仲間を大切にして、資本主義社会の中での競争は程々に、バーベキューしたり釣りしたり、クラブで騒いだり、人生を謳歌している。それこそ資本主義や社会、政治などにも目もくれず。彼らこそが社会の勝者かもしれないと最近強く思う。

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