本で繋がる人の輪と街と 「一箱古本市in沼垂テラス」参加レポート

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106日に新潟市中央区沼垂市場にて「一箱古本市in沼垂テラス」が開催された。69日に新潟市中央区学校町で開催された「一箱古本市in現代市(いまいち)2013」に引き続き客として参加することができた。
新潟で一箱古本市を開催するのは、新潟でブックイベントを行う「ニイガタブックライト」という団体。地元の本好き・本屋の有志が中心となって2011年春に立ち上げられたそうだ。ニイガタブックライトが一箱古本市を開催するのは今回で6回目。

ニイガタブックライト:http://niigatabooklight.com/
一箱古本市は、東京都千駄木「不忍ブックストリート」がモデルとなり、全国の都市で開催されている。その公式ホームページでの解説は以下のとおり。

地域のさまざまなお店の軒先をお借りして、それぞれの「大家さん」の前で、「店主さん」が段ボール箱ひとつ分の古本を販売します。どんな本をいくらで売るかは店主の自由です。屋号を付けたり売り方を工夫したりと、本屋さんごっこが楽しめます。大家さんの場所や店主さんは毎回変わるので、いつも新しい発見があるはずです。(不忍ブックストリートWEBサイトより引用:http://sbs.yanesen.org/?page_id=31

ちなみに新潟では「両手で持てる大きさまで」という独自ルールがあるとのこと。


私は前回開催された一箱古本市が初めての参加であったが、本好きの店主と本好きのお客が一同に会す雰囲気は独特で、私生活ではなかなか味わえない空気に今回も感動した。そもそもイベント自体が手作り感あふれるものであり、売り手と買い手の両方が参加者として場の雰囲気を盛り上げていると感じる。特に各店先でのコミュニケーションは何とも言えない温かみがある。

これだけ聞くと若い人たちは「コミケ」を想像するかもしれない。私はコミケには行ったことがないので分からないが、今のような一大イベントとなる前の、コミケ初期の時代はこんな雰囲気だったのかもしれないと想像してしまう。
「本」という媒体の特性上、老若男女が幅広く楽しむものであるためか、会場には小さな子供から、学生、社会人、親子連れ、おじいさんおばあさんまで本当に幅広い層の人が集まっている。そして、本好きの属性からか、少し落ち着いていて、何となくエコやDYIに関心の高そうで、そこはかとなく文化的な香りを感じさせる参加者が多いのではないだかという印象だ。
そしてなんといっても、「本」という媒体を通じてこれだけの人が繋がっている、人間関係の輪を広げていることに毎度驚かされる。
さて、今回会場となったのが沼垂市場。沼垂はかつて港町として栄えた町であると同時に、阿賀野川と信濃川に挟まれ水害に悩まされた町でもあった。洪水などにより、沼垂町は何度かの移転を余儀なくされたことがあるほどだ。また、北越鉄道の終着駅が建つなど沼垂町は新潟市の隣で大きな存在感を放っていた。
そんな歴史ある沼垂であるが、その寂れ具合は凄まじく、時代の趨勢を感じずにはいられない。沼垂市場は新潟市中心部のビルと北越製紙工場に挟まれ、どこまでも沈んでいくような廃退的雰囲気はどこか愛おしさすら感じてしまうほどだ。貨物列車の駅があり、かつて賑わったであろう商店街も、今ではその大半がシャッターを降ろし、もはや朽ち果てるのを待つだけの様子。ノスタルジーな雰囲気が漂っている。


ところが、錆だらけの商店街に魅力を感じてしまう人がいるから驚きである。シャッターの降りた沼垂市場に魅力を感じ、お店やものづくりの拠点を構え始めた若者が出てきたのだ。「沼垂テラス」は、そんな沼垂で活動する若手商店主やものづくり作家が開催しているイベント。今回の一箱古本市in沼垂テラスは、本好きの有志の会と、沼垂で活動する若者たちとの合同開催で行われた。


イベントは、ニイガタブックライトの一箱古本市、沼垂テラスの雑貨等のマーケット、フード、ワークショップが同時に開催されているという内容だった。両者を嗜好する層が重なっているためか、とても新和性の高いイベントとなった。天候にも恵まれ、小さな子供から、おじいちゃんおばあちゃんなど多くの参加者が汗を流しながら個性的な店主たちの店をまわった。


ちなみに沼垂という拠点を持って沼垂市場を楽しくしようと言う若手商店主らと、本好きという嗜好性だけで繋がっている一箱古本市の店主たち。両者の嗜好は似たものがあるが、実は立場は徹底的に異なる。
それは、日常的に実態を持っているかいないかという点だ。
一箱古本市に出店する店主たちは、普段は別の日常があり、イベント開催時に「祭り」のように集まり、そして別の日常に去っていく。
「祭りの会場」が欲しい一箱古本市の店主や参加者たち。

一方で、沼垂市場の店主たちは「祭り」の後には、その場所で再び日常が始まる。
その日常に好影響を与えるような「祭りを起こしたい」沼垂市場の店主たち。


街に活気を取り戻すためには、このような違う立場のコラボレーションが繰り返えされていくことが大切なのではないかとイベントを訪れて感じた。
身内、地元の人だけではなく如何に外部のコミュニティを活用し、外部の人を流入させるのかがポイント。そしてそれを継続的に続けていくことだ。

一箱古本市のように、「仲間が集まる場所」を求めている人の輪は他にもたくさんあると思う。そんな好きで繋がるコミュニティをどんどんと受け入れる、そして気持ちよく使ってもらう、ハードとしての機能が、人口減少時代に好かれる街になるためには求められてくるのではないだろうか。

ライター 唐澤 頼充

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