工場見学は観光コンテンツになり得るか? 「燕三条 工場の祭典」レポート

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10月2日から6日までの5日間、燕三条地域の工場を一斉に開放するイベント、「開け、工場 工場の祭典」が開催された。私は10月3日に予定がつき、いくつかの工場を回ることができた。

公式ウェブサイト:http://kouba-fes.jp/

燕三条地域は、金属洋食器や作業工具、刃物等の金属加工技術の地場産地域として全国的にも有名な地域だ。しかし、国内外市場の競争激化に伴い、産業の縮小が報告されている。そのような中、ものづくりの最前線である工場(こうば)を開放し、見学・体験できる機会を提供しようというのが今回の企画だ。
もともとは「越後三条鍛冶まつり」の名前で開催されていたイベントであったが、より深く燕三条の魅力を発信するため、生産の現場を開放する試みを今年からスタートさせたそうだ。

今回の「工場の祭典」では、約50社が工場が一斉に開放された。工場見学と言えば、振り返ってみても学生時代の社会科見学以来という方も多いのではないだろうか。普段なかなか触れる機会のない工場の中を見られる。それだけでワクワクした気持ちになるのは、私だけではないだろう。

さて、10月3日は朝9:30頃に燕三条に到着。終了時間の17:00まで滞在したが、回れた工場の数は僅かに5箇所。平日に見学を受け入れていない工場や、移動時間を思った以上に取られたことから、多くの工場を回ることができなかった。これについては、不満が残る結果であった。
そもそも事前に調べようとしても、ウェブサイトが見にくく、どのような工場があるのかをしっかりと下調べできなかったことが大きな原因であろう。またエリアが拡散していることから、巡回ルートについて組みにくかったという点が挙げられる。

主催者が市ということもあり、特定の工場のピックアップやモデルコースの設定ができなかったのだと想像されるが、約50の工場をぽんと並べられて「好きに回ってください」ではホスピタリティが足りなかったように思う。案内所である「鍛冶屋道場」を訪問しても、ルート案内等は無くどう回ったものか途方にくれた部分もある。
しかし、今回が1回目。次回以降の告知改善、参加者への配慮に期待したい。

不満を先に述べてしまったが、試み自体は大変有意義なものであったと思う。私が見学できた工場は、どこも素晴らしく、また日常では触れることのない生産現場は新鮮であった。見学した工場は以下の通りである。

・義平刃物
http://www.giheihamono.com/index.html
家庭用包丁を作る、親子二人の工場。息子の代で5代目。職人らしい工場が印象的だった。

・相田合同工場
http://www.kuwaya.com/
鍬(くわ)を作る工場。多くの職人を抱え、多種多様な鍬を生産・修理している。若社長が直々に工場を案内してくれた。グッドデザイン賞を受賞した鍬は美しかった。

・玉川堂
http://www.gyokusendo.com/
一枚の銅板を叩いて様々な製品を生み出す、鎚起(ついき)銅器の老舗。鎚起職人が畳の上でケヤキの切り株にまたがり作業する様は1816年の創業以来変わらず。

・セブン・セブン
http://sevenseven77.com/
真空タンブラーが有名な製造業。生産ラインは近代工場的であり製品も身近に感じた。撮影禁止が残念ではあったが独自の真空断熱技術は一見の価値アリ。

・諏訪田製作所
http://www.suwada.co.jp/
1950年より爪切りを追求し続ける鍛冶屋。伝統と近代設備が融合された工場は職人の新しい未来を想像させられた。ブランドを確立した強みを感じさせる工場。

各工場を訪れると、仕事中にもかかわらず快く説明をしてくれたことが印象的であった。実行委員会と各工場のコミュニケーションがしっかりとなされている証拠だと思う。そして、ピンクの縞模様のイメージカラーが各所で統一して利用されており、イベント全体の一体感を感じた。

そして、何よりも「工場を見る」という体験は非常に心が躍るものだった。燕三条の職人にとっての日常は、私たち一般人にとっては非日常なのだ。特に、生産と消費が完全に分離されている現代においては、どれだけ手間をかけてひとつの製品が作られているのかなど知る由もない。そのような時代を生きる私にとって、多くの工場を見学できた「工場の祭典」は大変満足度の高いものとなった。

今回の体験を通じて、「生産の現場=工場」は、実はものすごく大きな力をもった観光資源になり得ると強く感じている。

今でも燕三条では工場見学を恒常的に受け入れているようだ。(燕三条地域の観光情報サイト:http://www.tsubamesanjo.jp/kanko/kengaku
しかし、今回のイベントと同様に見学先の選定は各人の判断に任されている。また、工場の説明をしてくれるのかどうかは定かではない。「どこが見所なのか、どう見学すればいいのか」という不安は私を含めた消費者には間違いなくある。

ちなみに、工場の祭典の開催にあたっては、世田谷ものづくり学校が、ファンツアーを募集したようだ。(http://setagaya-school.net/FromIID/8642/)。料金は2日間で15,000円。ホテル宿泊希望者は+3,000円だ。コースも策定してあり、参加者はバスに乗っているだけでOK。何人集まったかわからないが、お金を払ってでも工場を見学したいという方はいるということである。

私自身15,000円は出せなくとも、3,000円くらいのガイドつき有料バスツアーがあれば、今回の工場の祭典では利用したかった。このような声はきっと私だけではないだろう。

繰り返すが、工場というものは職人や燕三条の商工会や業者の人々にとっては当たり前のものかもしれない。しかし、一般人にとってはお金を払ってでも見る価値のあるコンテンツなのではないだろうか。そのような意味で、今回の「工場の祭典」は、普段は入れない工場に入ることができることを認知させた大変有意義な取り組みであったと思う。

これをきっかけに、有料ツアーを時期を決めて募集したり、モデルルートを設計する等して、工場見学を観光コンテンツとして成長させていってほしい。そして、いつか燕三条の町工場に観光収入が少しでも入るような仕掛けが生まれることを期待したい。

ライター 唐澤 頼充

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